よく知られていないカーネーションの特長
カーネーションはナデシコ科ナデシコ属に分類され、多年草の中でも宿根草の特徴を持っています。宿根草は冬の間、地上部は枯死してしまいますが、根が地中にある限り何度も花を咲かせる性質を持っています。また、カーネーションは暑さに弱いため、夏期は収穫対象とせずに、苗の育成時期となっています。あまり知られてはいませんが、カーネーションは種から栽培しようとすると様々な色の花が咲いてしまい、花の規格を統一することができません。そこで、苗から摘芯したわき目(穂)を植えることによって、苗と同じ花の規格に統一して栽培されています。
ピンチを繰り返してカーネーションは増える
カーネーションの栽培にとって重要なのが『ピンチ』と呼ばれる摘芯作業です。カーネーションは1本の苗から1つの花を咲かせますが、摘芯することで花の収穫量を増やすことができるのです。夏前に苗を植えて芽が成長すると、株元から5~6節目を折ってわき目を発芽させます。夏期はピンチを数回行うことで花の量を増やしたり、修正ピンチと呼ばれる摘心を行うことで、収穫時期を調整する役割も兼ねています。このピンチは早く咲いた芽から順次行われるので、暖地型のカーネーションは10月中旬~翌年の5月まで収穫することができます。そして寒地型のカーネーションが出荷終えるタイミングで暖地型のカーネーションが市場に出回るようになります。
このようにして、一年を通して高品質なカーネーションを楽しんでもらえるよう栽培スケジュールが組まれています。特に3月~5月は日射量も増えてカーネーションは開花が進みます。また、春は卒業式や入社式などのセレモニーも多く、5月は母の日もあることから、出荷のピーク期でもあります。収穫を終えた後、品質を揃えたもの選定して出荷調整作業…と、この時期は生産者にとってまるでコンビニの店長さんのように忙しい繁忙期になります。
若い世代は花瓶を持たない
筆者の出身である静岡県は日本を代表するお茶の産地として知られています。しかし、茶産業も最近は若い世代のお宅に急須がないことから、茶葉よりもペットボトル用のお茶やティーバッグの製品化に注力されているようです。こういった状況はカーネーションにおいても同様のことが言えて、若い世代の方々は花瓶を持っていないという点で似たような事情を抱えています。もっと手軽にカーネーションを楽しんでもらうにはどうすればよいのか―。これは、生産者にとって大きなテーマの1つとなっています。カーネーションはお花の初心者にも失敗が少なく、非常に扱いやすいことが特徴です。若い世代の方にも手軽に花のある生活を楽しんでもらえるよう、生産者が一丸となって取り組んでいます。
カーネーションはキレイからへカワイイ!の時代へ
様々な花色を持つカーネーションですが、鮮やかなブルーと墨汁のような黒以外は既に品種として存在するところまでカーネーションの品種改良は進み、花色はほぼ出尽くしたと言ってもよい状況です。こういった点から、昨今の品種改良は生産性に軸足を置いています。生産者目線でいえば、カーネーションも生き物なので、暖地や寒地などの適地適作の品種改良に立ち返ろうという動きがあります。一方で、消費者目線でいえば、花のボリュームなどの品種改良も行われていますが、最近は花自体に『もうひと手間かけるよう』という動きがあり、例えば白いカーネーションを人工的に染めたり、七色のカーネーションに染色するなどの試みが進んでいます。以前は人工的に染めた花色は受け入れられませんでしたが、人々の感性も時代とともに変化しているのでしょう。最近の若い世代の方々は花を見て『キレイ』ではなく『カワイイ!』という感性に移り変わってきています。時代のトレンドや若い消費者の感性にフィットするカーネーションの改良に生産者も知恵やアイデアを出しながら取り組んでいます。
プロが教える良いカーネーションの選び方
良い花には生き物特有の照りや艶があり、花弁の先までしっかりとピンと伸びているものが元気な花の証です。スーパーで鮮魚を品定めするのと同じように、カーネーションも生き物なので色艶や輝きが良いものを選んでみてください。良い花を見つけるためにも花屋に足を運び、カーネーションと向き合ってみて下さい。自分を呼んでいるように感じたカーネーションがあったら、それがあなたに合った1本です。『カーネーションが自分を呼ぶなんて…』と不思議に思うかもしれませんが、その人の心の状態やその時々で良いと感じるカーネーションは変わってきます。
また、花屋と良い関係性を築くこともポイントです。お気に入りの美容室や行きつけの飲食店があるように、顔見知りの花屋があると状態の良いものや旬の花を出してくれます。花を見て笑顔になったり、自分の心を表現するために花を使ったりするのは、地球上の生物を探しても人間しかいません。花屋を含めて、人との繋がりの中で花を選ぶことは理に適っており、花選びには花の良さと人の良さが大切なのです。
花言葉に捕らわれずもっと自由に楽しんで
花についてインターネットで検索すると花言葉をよく目にすると思います。花言葉は相手への気持ちや感情を表現したものもあれば、中にはネガティブな意味合いを含んだものまであります。花言葉は花の特長や性質を象徴的な言葉で表現したものですが、あまり花言葉に捕らわれ過ぎず、ぜひとも自由に楽しんでみてください。
我が子のように大切に育てた花達が品種や花色で裏切りや別れといった良くない象徴づけられるのは残念なもので、生産者はそんな気持ちで花を育ててはいません。誰かの笑顔や癒しを願い、手間暇かけて1本1本を育てています。
花言葉は時に自分の思いを表現し、手助けしてくれるのに便利ではありますが、花を贈る相手の好みやその人の笑顔、花を使うシーンを想像しながら『これが良い』と感じたものを感性の赴くままに選んで欲しいと思います。どのカーネーションもきっとあなたの気持ちや真心(まごころ)を伝えてくれるはずです。
カーネーションを長持ちさせない3つのNG
カーネーションを長く楽しむために3つのNG(やってはいけないこと)があります。花を長持ちさせるには、水やりに意識がいきがちですが、実はもっとシンプルです。いずれも簡単なポイントなのでこれから花を楽しむ際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
【NG ①】花瓶の中が汚い
花が長持ちしない最たる要因。雑菌の繁殖はカーネーションの日持ちに影響するので、花瓶の中を清潔に保つことが何よりも重要です。
【NG ②】直接風が当たるような場所に飾る
暖い風や冷たい風など、直接強い風が当たる環境をカーネーションは好みません。そよ風に吹かれる程度なら問題ありませんが、エアコンなどの送風口に飾るのは避けるべきです。
【NG ③】果物の横に飾る(花の横に果物を置く)
果物は自身を熟成させるために、エチレンガスと呼ばれる植物ホルモンを分泌します。このエチレンガスが切り花の日持ちに悪影響を及ぼすことが分かっています。青果物の真横(エチレンガスの発生源)の近くに花を飾るのは避けた方が賢明です。
カーネーションはお花の入門編。初心者こそ楽しんでほしい
カーネーションは年中どこでも手にすることができる馴染み深い花でありながら、様々な花の形や豊富な花色を持った他に類を見ない品種です。花特有の臭いも少なく、花粉も落ちないので、お家で手軽に楽しんでもらうことができます。また、水上げもよく、長持ちすることから、お花の初心者にもカーネーションはうってつけの花です。母の日はもちろん、四季折々のセレモニーやハロウィンなどのイベントにも、お友達と手軽に様々なカーネーションを楽しんでみてください。
<情報提供>
日本花き生産協会 カーネーション部会